02. 移植腎を長くもたせるために重要なこと

出典:腎泌尿器疾患研究所

1服薬管理

免疫抑制剤を飲み忘れたらどうなるのでしょうか?

免疫抑制剤は基本的には移植腎が機能している限り、毎日、朝(夕)飲むのが原則です。しかし、人間である限り忘れるということはあります。週2、3回などの頻回の飲み忘れは確実に拒絶反応を引き起こし移植腎が長持ちしなくなります。通常、免疫抑制剤は2、3種類内服していることが多いのですが、どれかひとつを忘れてもよくありません。
飲み忘れの対策としては、携帯などを利用して服薬時間を知らせたりするような工夫が必要です。また、特に若い人で夜、飲酒して飲み忘れることがありますが、このようなときは多少時間がずれますが夕食前に内服しておくといいでしょう。最近では朝1回のみの内服でよい薬も多くなっていますので、それらを利用することもいいでしょう。

2生活習慣病対策

移植後も糖尿病治療は必要なのでしょうか?

そもそも糖尿病が原因で腎不全になる人が多くなっています。したがって腎移植を受ける人がもともと糖尿病ということはよくあります。このような場合は腎移植後も移植前と同じように糖尿病の管理が必要です。
腎移植後に初めて糖尿病を発症する人もいます。頻度的には2~5%前後で決して多くはありませんが、注意が必要です。もし発症しても免疫抑制剤の内服量が少なくなるとともに改善する人も少なくありません。
発症しにくくする工夫としては、食べ過ぎに注意すること、適度の運動でカロリーを消費することが必要です。特に体重の管理に注意して肥満にならないようにすることが必要です。また、どうしても血糖が高い場合は糖尿病の内服治療、ないしはインスリン療法が必要となりますが、インスリンの使用を必要とする頻度はかなり少なく1~3%程度であると考えられています。

肥満は移植腎にどのような影響があるのでしょうか?

肥満は移植後に限らず非常によくありません。肥満は腎機能の悪化をもたらしますし、高血圧、糖尿病などの強い誘因となります。肥満とならないように食事、運動には厳重に注意しましょう。
実は、腎移植後に患者さん自身ができる健康管理はそう多くはないのですが、この「肥満を防ぐ」ということが一番重要なポイントと言って差し支えないでしょう。

移植後の高血圧にはどのように対応するのでしょうか?

高血圧は適切に管理することが必要です。高血圧を指摘されたら、まずチェックすべきは体重です。肥満であれば当然血圧は上昇します。また、ストレスも大きな血圧上昇の誘因となりますので、ストレスについても気を付ける必要があります。
時に移植腎の腎動脈の狭さくが発生すると血圧が上昇することがあります。超音波検査でこのような腎動脈の狭さくは比較的容易に診断可能です。
また、まれですが、副腎といわれるホルモン産生臓器に腫瘍が発生して血圧が上昇することもあります。これも血液検査、CT、MRIなどの検査により診断可能です。
一方、これらの明らかな原因が認められない場合は、原因不明ということで、「本態性高血圧」となり、服薬によるコントロールが必要となります。服薬する薬剤についての詳細はここでは述べませんが、必ず主治医と相談して内服をしてください。血圧の目標は120/70前後を一応の目安としてください。

喫煙してもよいのでしょうか?

どのような理由があっても、全くよくありません。
発がん、肺疾患などの誘因となりますし、移植腎の寿命を短くします。腎機能悪化の重要なリスクファクターとしてよく知られています。

3定期通院・定期健診

移植後はどの位の頻度で外来通院するのでしょうか?また外来ではどのような検査をするのでしょうか?

通常は腎移植後2週間もすると退院します。退院後3か月は、感染症、拒絶反応などの合併症が多い時期です。この時期は通常週1~2回の通院が必要となります。3か月すぎるとこのような合併症がおこる可能性はかなり低くなります。
私たちは3か月から6か月ごろまでは2週間に1回程度の外来通院をお願いしています。腎移植術後半年すぎると通常は月1回の通院となります。仕事などで毎月通院できないという場合を除き通常は月1回の通院をお勧めしています。このような通院により、細かい管理ができ、様々な異常が早期に発見されやすくなります。
外来での検査は主に血液検査、尿検査となります。通常は、血液(白血球、赤血球、血小板)の精査、腎機能、肝機能、炎症反応、免疫抑制剤の血中濃度、サイトメガロウイルスの検査などが行われます。私たちはこれに加えて定期的にBKウイルス、EBウイルス、移植腎および元の腎臓の超音波検査を行います。
また、抗ドナー抗体(PRA検査)の検索も定期的にすることを勧めています。

移植後はがんになりやすいのでしょうか?検診はいつから、どうやって受けるのでしょうか?

腎移植後の発がんは多いと考えられていますが、実は透析患者さんと比較すると必ずしも多いわけではありません。しかし、一般の健常者に比べるとがんの発生頻度はやや多くなっているのは確かです。
私たちは、40歳以上の方、腎移植後5年以上経過した場合などにはできるだけ検診を受けることをお勧めしています。腎移植外来は腎機能を診ていますが、がん検診をしているわけではありません。上記の条件になる人は必ず検診を受けてください。通常の人間ドック、脳ドックなどがよいでしょう。

腎生検は受ける必要があるのでしょうか?またどのタイミングで受けるべきなのでしょうか?

絶対ではありませんが、基本的には腎生検は受けたほうがいいでしょう。移植腎機能の問題が生じた場合や蛋白尿が出る時などは、強く移植腎生検が勧められます。
また、移植前からドナーに対する抗体があるなど移植後に拒絶反応の発生リスクが大きいと考えられる場合は、定期的な移植腎生検が強く勧められます。
私たちは、検査値で大きな問題がなくても、定期的な腎生検を強くお勧めしています。すなわち、クレアチニンの値、蛋白尿などだけでは必ずしも移植腎の異常を発見できないからです。通常移植後2週前後、半年前後(できれば)、1年前後に移植腎生検をお勧めしています。1年目で大きな異常がない場合は、3~5年目に1回の生検をお勧めしています。それ以上の術後に関しては現時点では決められた時期に移植腎生検をおこなっているわけではありません。

4感染予防

ST合剤は内服した方がいいのでしょうか?

ご存じのように、腎移植後のニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)の予防にST合剤の内服は非常に有効です。ST合剤の内服により、ほぼ予防可能と考えても差し支えないでしょう。
私たちは、以前は術後6か月までは、ST合剤内服を必須にしており6か月以降は中止していました。しかし、近年、免疫抑制剤が強力になっていることから移植後5年以上のかなりの時間がたってもニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)を発症する人が見られるため、現時点では長期にわたる内服をお勧めしています。通常は、週3回、1回1錠を原則としています(週に3錠となります)。
また、ST合剤内服で移植腎機能が悪化すると考えている人もいますが、この程度の量ではまったく問題はありません。

インフルエンザワクチンは接種していいのでしょうか

接種するべきです。インフルエンザワクチン接種によりインフルエンザが発症することは100%ありません。
ただ、逆にワクチンを接種しているからといって感染しないわけではありません。発熱などインフルエンザを疑うときはためらわずに病院に行き検査、投薬を受けるべきです。

ほかのワクチンは接種する必要があるのでしょうか?

必要なワクチン類は接種するべきです。ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがありますが、通常不活化ワクチンは問題ないものの生ワクチンの接種は、感染が発症してしまう可能性があることから勧められていません。
肺炎球菌ワクチンはできれば5年に1回ぐらいの接種が勧められます。
水痘なども一度かかった場合は通常2回かかることはありませんが、免疫抑制下では再感染することもあります。しかし、水痘ワクチンは生ワクチンであるため免疫抑制下では通常ワクチン接種は勧められていません。したがって、ワクチンを接種したり、一度罹り、通常2回は罹らないといわれているような感染症でも感染することがあるので、注意が必要です。よくわからないときは主治医にすぐに相談してください。
また、子供が感染症にかかった場合は、再度感染することもあり得るために主治医に相談することが必要です。特に、水痘は重症化することもあるため自分の子供が感染した時は予防的な薬剤投与を受けるなど、厳重な注意が必要です。

5移植腎の生着期間

移植腎はどのくらいもつのでしょうか?

これはひとことでは答えられない質問ですが、現在、私どもの施設で腎移植を受けた方の中には現時点で移植後40年以上生着してお元気にしておられる方もいらっしゃいます。
さらに現時点(2012年)での私たちの泌尿器科チームの患者さんの5年生着率は97%、10年生着率はほぼ90%以上です。長持ちさせるためのコツは、きちんとした服薬と体重管理、外来でのきちんとした管理につきます。
医学は日進月歩です。常に私たち泌尿器科のチームでは研究、学会活動を通じて世界の先端の診療レベルを保つようにしています。通院しているうちにそれまで不可能であった治療が可能になったり新しい薬剤が利用できるようになったりします。