出典:腎泌尿器疾患研究所
ほとんどの施設が3剤併用療法で免疫抑制を移植手術の前後にわたって行います。
まずカルシニューリンインヒビターと呼ばれるタクロリムスとサイクロスポリンは3剤の柱ともいえる薬です。拒絶反応の時に最も活躍するT細胞リンパ球を抑えてくれる薬剤です。
次に重要なのは代謝拮抗薬といわれる、ミコフェノール酸モフェティール、ミゾリビン、アザチオプリンです。T細胞リンパ球同様、拒絶反応の時に活躍するB細胞リンパ球を抑制してくれます。この中でもっともよく使用されているのはミコフェノール酸モフェティールですが、下痢や腹痛などの腹部症状および白血球の減少が副作用としてあり、内服が困難なときにはミゾリビンを使用しています。
女性移植患者さんが妊娠を希望したときには、ミコフェノール酸モフェティールやミゾリビンは胎児に催奇形性があるため、アザチオプリンに変更します。
ステロイド剤は、きわめて古くからある免疫抑制剤の1つで、いまだに使用されています。ステロイド以外に免疫抑制剤が存在しなかった1980年代~1990年代前半には、同薬が大量に投与され、消化管出血などの副作用より重篤な合併症に至った移植患者さんも少なくありませんでしたが、タクロリムスやミコフェノール酸モフェティールがあるいま、ステロイドの使用量も激減しました。
2012年からエベロリムスが登場しました。作用機序は上記に述べた3剤のいずれにも属しませんが、いま移植腎臓の長期生着を妨げる要因の1つと言われているカルシニューリンインヒビターの腎毒性を解決する薬剤として注目されています。移植後ある程度経過した維持期の患者さんに対してタクロリムスやサイクロスポリンを極限まで減量あるいは中止し、代わりにエベロリムスを加えることによって移植腎の更なる長期生着を達成できるかが今後の課題といえます。
上述した免疫抑制剤が特殊な感染を特に高率に引きおこすわけではありません。ただ重篤性などの観点から気をつける必要があるのはニューモシスチス肺炎および真菌感染です。
ニューモシスチス肺炎の感染の予防として移植直後の半年間はST合剤の内服を義務化しています。2005年ころより日本中で同肺炎が移植後長期経過した患者さんにも感染するようになり、現在、ST合剤の予防内服を永続的に実施している施設も少なくありません。移植後に発症するニューモシスチス肺炎はエイズの末期に発症する場合よりも重篤といわれています。腎臓は愚か命まで脅かす肺炎ですから、ぜひST合剤の予防内服をお願いします。
真菌の予防には移植後半年の間、ミコナゾールの内服を義務化しています。
腎移植患者さんの降圧目標は収縮期血圧/拡張期血圧 130/80未満です。
治療としてはまず生活習慣の是正を行う必要があります。塩分制限、ストレス軽減、禁煙、適正な体重管理などがポイントです。改善がなければ降圧剤の内服を考慮する必要があります。
処方される降圧剤にはその作用機序により様々にありますが、代表的なものとしては、ARB製剤であるブロプレス®、カルシウム拮抗剤であるアテレック®などがあります。患者さんがどのような要因によって高血圧をきたしているのかを分析することによって処方される降圧剤も異なってきます。
免疫抑制剤の副作用や移植腎臓の機能不全、過食、肥満によって移植後の患者さんが尿酸値高値を示すことはしばしばです。ただ、高尿酸血症から痛風発作になることは移植患者さんではそれほど多くありません。これは免疫抑制剤の働きによるものではないかと推測されています。
尿酸を抑える薬として移植患者さんに最もよくつかわれるのはユリノーム®です。尿酸を体外に排泄させる薬ですが、肝機能障害が副作用としてあります。
代表的なもう1つの高尿酸血症の薬としてザイロリックがあります。ザイロリック®は尿酸合成阻害剤ですが、免疫抑制剤との相互作用から不可逆的な白血球減少を副作用として起こすために使用されることはめったにありません。
最近発売されたフェブリク®は腎障害のある患者さんにも安心して使用できる尿酸抑制剤として注目されています。
このように移植患者さんの内服薬は一生に渡って多種類に及ぶために同時に胃薬を処方されることが多いようです。
免疫抑制剤、特にステロイド剤の重要な副作用の1つとして胃潰瘍や十二指腸潰瘍が知られており、特に移植の手術が終了した後の半年間はプロトンポンプインンヒビターであるパリエット®などを内服することをお勧めします。これらの薬は胸焼けの原因となる逆流性食道炎にも著効します。ただ、白血球減少などの副作用もあるため、移植後半年以上を経過した維持期の患者さんには他の弱い胃薬への変更も考慮します。
コレステロールの管理はとても重要です。透析を離脱して水分制限がなくなりステロイドの内服により食欲が亢進した状態になるため、移植後の体重が増え脂質異常症になる患者さんが多く見受けられます。動脈硬化の進行を遅らせて心血管疾患(脳卒中、虚血性心疾患)を予防するためにしっかりした管理が必要となります。
一方、高脂血症は移植後に内服する免疫抑制剤の代表的な副作用です。このため、腎移植後の患者さんは中~高リスク群以上に該当すると思われますので、LDL-C 120mg/dl 未満を目標としてコントロールする必要があります。治療の基本は食事制限や運動によって適切な体重を維持することですが、それでも目標達成が困難な時は内服薬の必要があります。
代表的な薬としてはリピトール®、エパデール®などがあります。高脂血症の薬剤は多種多彩であり、目的に合わせて使い分けを行います。
基本的には腎臓移植を行い腎機能がよくなれば2次性副甲状腺機能亢進症は改善します。しかし腎移植後6カ月で約三分の一の患者さんで、5年以上で約20%の患者さんで副甲状腺ホルモンの値が高値持続すると言われています。その原因として、副甲状腺ホルモンは腎機能が60%まで低下すると分泌が亢進すること、腎移植前に2次性副甲状腺機能亢進症の程度がすでに著しく亢進していることなどが挙げられます。
腎臓移植後に副甲状腺摘出に至るような場合は1~5%程度と言われていますが、現在はレグパラ®(シナカルセト)の登場のおかげですぐに手術をしなくてもしばらく副甲状腺ホルモンの変化を観察することができるようになりました。